
学部紹介(東京大学農学部農業資源経済学専修編)
はじめに
こんにちは!今回は、ハイストメンバーの私が現在所属している「東京大学 農学部 環境資源科学課程 農業・資源経済学専修」について紹介していきます。
「農学部って農業だけをやるところ?」「農業と経済ってどう関係あるの?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。私自身も入学前はそんなイメージを持っていました。
でも実際には、農業や環境といった“生きる”に直結するテーマを、経済学やデータ分析の視点から解き明かしていく、とても学際的で実社会と結びついた学問領域なのです。
学べる内容:農業×経済×データ分析の融合
農経専修では、以下のような幅広い分野を学びます。
- 農業経済学・資源経済学 農業や農村がどのように成り立っていて、どう変化してきたのかを理解し、より持続可能な農業・地域社会の在り方を模索します。
- 食料政策・農業政策「食料自給率」「価格支持政策」「グローバルな食料安全保障」といったテーマを、理論と実証の両面から深掘りします。
- 行動経済学・開発経済学 人間の意思決定の癖や、発展途上国の農村における貧困・教育・栄養の問題など、現場に寄り添う分析が求められます。
- 計量経済学・統計分析 RやStataといった統計ソフトを活用し、実際のデータから仮説を検証。理論にとどまらず「自分の手で検証する力」がつきます。
これらを通じて、食料・農業・資源・環境といった現代社会の根幹にある問題を、データや実地調査に基づいて理解・解決していく力を養います。
研究紹介:私の研究テーマ
私は「消費者の食行動と環境要因の関係」に関心があり、飲食店の売上に気象や大気環境がどのような影響を与えるかを研究しています。
たとえば、「飲食店の売上って、立地や価格だけじゃなくて、気温や雨、さらにはPM2.5などの大気汚染の程度にも左右されているのでは?」という仮説を立てて、統計的に分析します。
そのために用いるのは、飲食店のデータ、気象庁の気候データ、曜日・祝日情報など、まさに「実社会のビッグデータ」。それをもとに、ソフトウェアで回帰分析などを行い、要因を可視化します。
こうした研究は、たとえば気候変動下における食ビジネスの適応戦略や、都市政策と健康的な食生活の推進などにも応用可能で、非常に社会的意義が大きいと感じています。
授業紹介:印象深かった2つの授業
農作業実習
東京大学は、西東京市にある田無農場という広大な実習農場を持っています。ここで、田植え、収穫、剪定、土壌管理、スマート農業の実演(ドローン操作など)を実践形式で学びます。
この実習は、農業の基礎を体感するだけでなく、「農業ってこんなに奥が深いのか」という新しい視点を得られる貴重な機会です。農業に対する尊敬と、現場を知る大切さを学べる場でもあります。
しかも、収穫した桃・柿・トマト・レタスなどを持ち帰って食べられるという、実利的な楽しみもあります(笑)。
印象に残った回:さつまいも
中でも特に印象に残っているのが、さつまいもの苗を植えた回です。さつまいもと聞くと、のんびりと畑で苗を植えて、秋にホクホクの芋を掘る――そんなイメージを持っていたのですが、実際はとても繊細で緊張感のある作業でした。
まず驚いたのが、複数の品種を同時に扱うことの大変さです。畑にはいくつもの異なる品種の苗が用意されていて、それぞれの苗を間違いなく区画ごとに分けて管理する必要がありました。万が一品種が混ざってしまうと、その区画全体が“管理不能”ということで廃棄対象になってしまうんです。
しかも、それぞれの苗は思ったよりも高価で、1本あたり数百円から数千円するものもあると教わりました。「土に挿すだけでそんな高いの?」と思ってしまいそうですが、それだけの価値がある理由があります。
というのも、新品種の中には農研機構や大学などが開発した登録品種も含まれていて、それらは知的財産として厳密に管理されているのです。許可なく苗を販売したり、持ち出したりすると違法行為にあたり、損害賠償として何百万円単位の請求が来ることもあると聞いて、思わず手元が震えました。
そんな中で植えた新品種のひとつは、糖度が非常に高く、生で食べても甘いレベルのさつまいも。まだ市場にはほとんど出回っていない品種らしく、収穫後に少しだけ試食させてもらったのですが、本当にスイーツのような味わいで感動しました。
普段、何気なく食べているさつまいもにも、品種改良、知財、流通管理など、さまざまな専門知識と苦労が詰まっているということを、身をもって知る機会になりました。食べ物の裏側を知ることで、農業という営みがいかに緻密で知的な分野であるかを実感しました。
🧑🌾 農政学
農業と政策の関係を、明治以降の日本の発展史と重ねながら学ぶ授業です。たとえば、「産業の発展は農業の安定供給があってこそ」という考えに触れたとき、農業の重要性を歴史から実感しました。
この授業では、途上国の農業振興政策、WTOなどの国際交渉、食料安全保障などのグローバルな視点も学べます。農業を“内向き”にとらえず、国際関係や経済構造の中での位置づけを考える力がつきます。このように農業の根幹を歴史とともに学ぶという分野は非常に興味深く、次回以降私の記事で農政学について深く紹介していこうと思います。
おわりに
農経は、単に「農業をやる人」のための専修ではありません。「食と環境と経済の未来を考える人」のための場所です。
学問的にも実社会的にも、多様なアプローチが許容される環境で、自分の興味をとことん掘り下げられるのが最大の魅力です。
「農業にちょっと興味がある」でも、「経済を学びたいけど、人の暮らしに近いテーマがいい」でも、どんな入口からでも入れる懐の広さが農経にはあります。
ぜひ興味があるテーマがあれば調べてみてください。農経の世界は、きっとあなたの好奇心に応えてくれるはずです!

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