
科学で解き明かす勉強法 ― 東大生が語る本当に効く学び方
勉強法は「根性論」から「科学」へ
「勉強の仕方が分からない」。誰もが一度は感じる壁です。ノートを綺麗にまとめても覚えられない、何時間机に向かっても成果が出ない...。皆さんもそんな経験はありますよね。
実はその悩みの多くは「努力が足りない」からではなく、「脳の仕組みに合わない方法」を使っているだけかもしれません。
私自身、東大受験生時代に暗記科目を「ノートまとめ」で克服しようとしましたが、全く頭に残りませんでした。そこで思い切ってやり方を変え、「教科書を閉じて自分の言葉で説明する練習」 を始めたのです。これが、記憶定着に最も効果的な方法の一つとして科学的にも証明されている「想起練習(テスト効果)」です。
このように、成功も失敗も含めた体験と科学的根拠をつなげて整理すると、「なぜあの時伸びたのか、なぜ伸び悩んだのか」がクリアになります。この記事では、そんな実感と理論を交えながら、受験や資格試験で役立つ “科学的に正しい勉強法” の中から、記憶と集中に関する効果的な方法を紹介していきます。
記憶の科学:暗記を「理解」へ変える3つの技術
1. 精緻化リハーサル
記憶を長期的に定着させるカギは、情報に 「意味」と「深み」を与えることにあります。このように情報に「深み」を与えることで、短期記憶の忘却を防ぎ、長期的な記憶として脳に定着させることができるのです。これが心理学でいう「精緻化リハーサル」の基本的な考え方です。
歴史の学習を例に考えてみましょう。出来事を単なる年号の羅列として暗記するのではなく、その背景にある社会的状況や関連する人物、さらにはその後の時代への影響を合わせて理解することで、記憶ははるかに強固になります。 これは「精緻化リハーサル」の典型的な方法です。
実際、私自身も高校生の時に、歴史の流れを単なる知識の積み重ねとしてではなく、ひとつの物語としてとらえることで、頭の中に自然と残っていく経験をしました。例えばフランス革命を覚えるときも、「なぜその時代に民衆の不満が高まったのか」「ルソーの思想がどのように人々を動かしたのか」「その後のナポレオンの登場にどうつながっていくのか」といった点を結びつけるだけで、ただの暗記が“理解”へと変わっていきます。
こうした精緻化を助ける教材の一つに、我々ハイストが開発している歴史カードゲームがあります。カードには偉人や出来事が描かれているだけでなく、その人物が実際に何をしたのか、どんな影響を与えたのかという説明が効果とともに記されています。単に「名前と年号」を覚えるのではなく、「この人物がこんな行動をとったから、その後こういう時代につながった」というストーリーがカードを通して自然に思い出される仕組みになっているのです。まさに「精緻化リハーサル」を遊びの中で体験できるようにデザインされています。
このように、学習を単なる暗記作業としてではなく、意味づけと関連づけを加えることで、記憶の定着は飛躍的に高まります。
2. テスト効果:インプットより「思い出す」が強い
私は受験勉強の初期は「暗記科目=ノートにまとめる」という方法を信じ切っていました。カラーペンを駆使して、きれいに整理されたノートをつくることに満足していたのです。しかし、試験でその知識を再現できるかというと、まったく別の話でした。試験本番になると「あれ、確か書いた気がするけれど…」と肝心なときに思い出せない。そんな苦い経験を何度もしました。
そこで思い切ってやり方を変え、「自分にテストをする」方式に切り替えたのです。つまり、覚えたと思う内容を実際に紙に書き出したり、誰かに口頭で説明したり、問題集で何度も解き直したりしました。すると驚くほど知識が頭に定着しました。これこそが心理学で広く知られている「テスト効果(想起練習)」です。
実際にある心理学の研究では インプット3:アウトプット7の比率で最も記憶の定着率が高かったと報告されており、人の長期記憶の形成にはアウトプットの時間の長さが重要であると分かったのです。
例えば、歴史の勉強では、単に教科書を眺めるよりも「この出来事の原因は?」「次に起きたのは?」と自分に問いかける習慣を持つだけで理解が深まりました。たとえば「日清戦争の講和条約は?」と問い、答えを口で言ったり紙に書いたりする。その繰り返しによって、ただ読むだけのときよりも格段に長く記憶に残りました。
英単語の暗記も同じです。単語帳を何度も眺めるより、「日本語を見て英語を答える」「逆に英語を見て日本語を答える」という自作クイズを繰り返す方が効果的でした。特に、夜寝る前に小テストをして、翌朝もう一度同じテストをするだけで、驚くほど定着しました。
このように「読むこと」よりも「思い出すこと」に記憶定着のカギがあるのです。
3. 間隔効果:復習は「詰め込み」より「分散」
学習効率を最大限に高めるには、復習のタイミングも重要です。テスト前日に10時間詰め込む「詰め込み学習」よりも、時間を空けて繰り返す「分散学習」の方が、記憶は圧倒的に定着しやすいのです。これは「間隔効果(spacing effect)」と呼ばれ、教育心理学でも強力な効果が確認されています。
例えば、テスト前日に10時間詰め込むよりも、1週間前から毎日1〜2時間ずつ学んだ方が結果的に記憶の保持率が高くなります。皆さんも「一夜漬けで覚えたのに、翌日には半分以上忘れていた」という経験はありませんか? これは人間の記憶が時間とともに自然に薄れていく「忘却曲線」の影響です。
実際におすすめの復習スケジュールとしては:
1回目:勉強したその日の夜に軽く復習し、短期記憶から中期記憶への移行を助ける。
2回目:翌日(24時間以内)に確認し、忘却曲線の急激な下がりを食い止める。
3回目:1週間後にもう一度復習し記憶を強固にする最初の定着をはかる。
4回目:1か月後に再チェックし記憶を長期記憶として固定化する。
このように「短い間隔から少しずつ伸ばしていく」(増大間隔)形で復習すると、忘却曲線の下がりを食い止め、長期記憶に変わりやすくなります。
集中の科学:「ポモドーロ」と「環境デザイン」
1.集中力を味方にする時間管理術
中学受験期の私は、放課後に友達と遊んでから塾へ直行し、帰宅後は宿題や復習。正直、夜になると頭はもうぼんやりして、机に向かっていても集中できていない自覚がありました。そこで試したのが「集中を区切る」方法です。
人間の脳は「ずっと集中」できるようにはできていません。むしろ、適度に休憩を入れた方が効率が上がるのです。そこで役立ったのがポモドーロ・テクニック。これは25分間集中し、5分間休憩をとるサイクルを繰り返すシンプルな方法です。
例えば算数の過去問を解くとき、最初はダラダラと1時間やろうとしていましたが、集中が途切れがちでした。そこで「25分だけ全集中で解いてみる」と区切ると、終わりが見えているので逆に集中が高まります。5分休憩のときは立ち上がって水を飲んだり、体を伸ばしたりするだけで頭がリフレッシュ。次の25分に自然と切り替えられました。
52/17ルール
一方で、大人に人気なのが 52/17ルール。これは「52分集中→17分休憩」を繰り返す方法で、アメリカの調査から生まれました。大人にとっては25分が短すぎることもあり、より長く集中した後にしっかり休むスタイルが合うケースもあります。
私自身、大学受験の頃にはこちらを使いました。英語長文を読むときや数学の難問に取り組むときは、25分だと時間が足りない。しかし52分と決めて取り組むと「その間は絶対にスマホを見ない」、「目の前の問題に集中しきる」と割り切って勉強できるので、メリハリがつきました。
「15・45・90の法則」とのつながり
こうした集中サイクルには科学的な裏付けがあります。「15・45・90の法則」と呼ばれるもので、最も深い集中は 15分間、子どもが授業で集中できるのは 45分程度、大人の集中力の上限は90分前後とされています。つまり、自分の年齢や取り組む課題の種類によって、どの時間設定を使うか選べば良いのです。
例えば小学生の受験生なら、25分+5分(ポモドーロ)がフィットしやすく、 中高生や大学受験なら、45分〜52分+休憩が自然。そして社会人や研究者なら、90分を一区切りにするのも有効といった具合です。
実際に応用例として受験生活に取り入れるならばこのようにしてみてはどうでしょうか。
暗記系:社会や理科の用語暗記は25分ごとのポモドーロで小テストを繰り返す。
読解・演習系:英語長文や算数の大問は52分ルールで腰を据えて取り組む。
模試対策:実際の試験は45〜50分ごとに区切られることが多いので、練習でもその単位に慣れておく。
結局のところ、どの方法が正解というよりも 「自分が一番集中できるリズムを見つけること」 が大事です。私自身も中学受験ではポモドーロ、大学受験では52/17ルール、大学の課題では90分単位と、状況によって使い分けました。
集中力は「気合」ではなく「仕組み」でコントロールできます。 区切りの力を味方につけると、勉強の効率が驚くほど変わります。
「休憩後に戻れない問題」を解決する:行動のハードルを下げる技術
「10分だけ休もう」と思ったら、気づけば1時間経っていた――
こんな経験、ありませんか?
実は、休憩後に勉強へ戻れないのは意志が弱いからではありません。
脳には「再起動コスト」があり、行動を“始める瞬間”に最もエネルギーを使うからです。
だからこそ、対策はシンプル。
「再起動」のハードルを極限まで下げることが大切です。
私はその実践方法を「一問だけルール」と名づけていました。そのルールは簡単です。
休憩から戻ったら、いくらやる気が出なくてもまずは「一問だけ解く」。問題集でも、英単語帳でも、わずか5分で構いません。
この「小さな再開スイッチ」が、脳を再び「学習モード」へ切り替えてくれます。
一問解いたあと、やる気が出なければ、潔くもう一度数分間休む。「それでもOK」というルールを先に決めておくことで、心理的なプレッシャーを減らせます。
面白いことに、人間は 「始めるとやる気が出る性質」 を持っています。これは心理学でいう「作業興奮(activation of behavior)」という現象です。やる気があるから始めるのではなく、始めるからやる気が出るのです。
こうして行動のハードルを下げることで、「0から1」の再起動が驚くほどスムーズになります。続ける人ほど、実は「やる気」ではなく、「始め方」を設計しているのです。
2.集中力を高める「環境デザイン」の力
もうひとつ、勉強効率に直結するのが 環境のデザインです。つまり 「集中できる空間をあらかじめ整える」 という考え方。人間の脳は環境の影響を強く受けるため、机の上や部屋の状態を変えるだけで学習の質が大きく向上します。
科学的根拠として、心理学には「意思力(ウィルパワー)は有限」という考え方があります。人間は目の前の誘惑に耐えるたびに意思力を消費していき、他の作業への集中力が低下することが分かっています。
つまり、漫画やゲームが机にあると「手を伸ばさないように頑張る」だけでエネルギーを消耗してしまうのです。そのため、最初から誘惑を排除しておく方がはるかに効率的 です。
実践例1:机の上は「問題集と鉛筆だけ」
中学受験期、私の机の上はいつも散らかっていました。筆箱の中には関係ない付箋やらシールやらが混ざり、参考書も積み上げたまま。結果、机に座っても「何からやろうかな」と迷ってしまうのです。
そこで親の助言で「机の上には今日やる問題集と鉛筆だけ」を徹底したら、不思議とすぐに勉強に取りかかれるようになりました。脳が「机=勉強モード」と自動的に切り替わるようになったのです。
実践例2:スマホを別の部屋に置く
東大受験の頃はスマホが一番の敵でした。通知が鳴ると集中が途切れるし、気づけばSNSを開いている。これは自分の意思の弱さではなく、脳の仕組みとして当然のことです。
実際、行動科学の研究では「スマホが机の上にあるだけで集中力が下がる」ことが示されています。通知が鳴らなくても、視界にあるだけで無意識に気を取られてしまうのです。
そこで私は、受験期はスマホを親に預けていました。最初は不便でしたが、数日で慣れて「スマホがないからこそ集中できる」状態に切り替わりました。振り返っても、あれは正解だったと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
- 記憶は「覚えることを物語化」し、「思い出す練習」で定着する(精緻化リハーサル・テスト効果)
- 復習は「間隔をあける」ことで効果が最大化する(間隔効果)
- 集中は「短時間サイクル」と「環境設計」で支えられる
灘中や東大に合格できたのは、才能ではなく、こうした科学的な方法を部分的にでも取り入れていたからだと思います。受験だけでなく、大人の学び直しにも役立つ内容になったのではないでしょうか。ぜひ今後の学習に活かしてみてください!

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