
「いい国つくろう鎌倉幕府」は間違い?教科書から学ぶクリティカルシンキング
突然ですが、あなたが昨日まで「絶対に正しい」と信じていた常識が、今日、目の前で「それ、全部間違いでした」と覆されたら、どうしますか?
「そんなことあるわけがない!」と思われるかもしれませんが、実は意外なほどごく普通に、そして頻繁に起きています。
本記事では、多くの人が「事実」として学んできた「教科書の記述」がどのように変わってきたかという事例を切り口に、情報が溢れる現代社会を生き抜くために不可欠な思考法、クリティカルシンキングの重要性とその実践方法について解説したいと思います。
よろしくお願いいたします。
この記事でわかること
教科書に書かれていた内容の意外な変更点
人が誤った情報を信じてしまう理由
情報にだまされずに本質を見抜く「クリティカルシンキング」の方法
教科書の間違い
僕たちが最初に「社会の常識」を学ぶ場所、それは学校の教科書です。そこには、歴史上の偉大な発見や、科学的な事実が詰まっています。一方、絶対的な真実が書かれているように思える教科書でさえ、研究の進展や解釈の変更によって、記述が大きく変わることがあります。本章では、その具体例を紹介したいと思います。
文系編:歴史が書き換わった例とその理由
いい国つくろう鎌倉幕府?
「鎌倉幕府の成立年は?」と聞かれたら、ハイストプレイヤーの皆さんはおそらく即答できると思います。そう、1185年です。しかし、僕が中学高校の頃は、「いい国(1192年)つくろう鎌倉幕府」という語呂合わせの通り、1192年に成立したと習いました。お父さんお母さんもこの認識だと思います。しかし、現在の歴史学では、「幕府の成立は、源頼朝が実質的に日本を支配するシステム(守護・地頭の設置)を完成させた1185年」とする見方が主流になっています。「トップの肩書きが決まった時」と「実質的な支配が始まった時」、どちらを「成立」と呼ぶかという歴史の「解釈」が原因ですが、いずれにせよ、教科書の記述は変わりました。

世紀の捏造事件
科学の進歩ではなく、人間の「嘘」が常識を破壊した、という事例もあります。2000年まで、日本の歴史は70万年も前に遡ると信じられていました。それは、あるアマチュア研究家が、次々と「大発見」をしていたからです。しかし、その全てが、彼自身が事前に石器を埋めて掘り起こすという、前代未聞の捏造(ねつぞう)だったことが発覚した結果、日本の前期・中期旧石器時代に関する記述は教科書から抹消され、歴史の一部が文字通り「無かったこと」になってしまいました。これは、旧石器捏造事件といわれており、当時大問題になったそうです。この例は、証拠と考えられたものが実は証拠になっていなかった例として、よく認識しておくべきだと思います。例えば、客観的な証拠として防犯カメラなどが出てきますが、この先、AIのディープフェイクなどにより、捏造されてしまう可能性もあります。
教科書に書かれている歴史は正しいのか?
旧石器捏造事件は極端な例ですが、もっと根深い問題もあります。それは、「本物の記録が発掘されたとしても、その記録が本当に正しいとは限らない」という事実です。
例えば、ある戦国武将について書かれた古文書が見つかったとします。でも、それを書いたのは誰でしょうか? その武将に仕えていた家臣かもしれません。だとしたら、自分の主君を良く見せるために、手柄を大げさに書いたり、失敗を隠したりして美化している可能性は高いと考えられます。逆に、敵対していた人物が書いた記録なら、わざと悪人であるかのように悪く書いている可能性もあります。
「歴史は勝者によって書かれる」という言葉があるように、記録というものは、書いた人の立場や感情、目的というフィルターを通して作られた「一つの物語」に過ぎないということを認識しておくべきだと思います。すなわち、客観性というものは意外なほどないということです。映像記録が残っている現代史でさえ、編集によって全く違う印象を与えることもできます。実際、しばしば偏向報道などは問題となります。ましてや数百年以上前の出来事となると、残された断片的な「物語」から真実を推測するしかなく、検証は極めて困難となります。したがって、そういった客観的でないものに基づいた現代の歴史描像も、大きな間違いが存在するのかもしれません。
理系編:科学は「更新」され続ける
電子はまわっている?
『半導体って結局なに??? 小学生にもわかるガチ授業【前編】』という記事でも述べましたが、理科の教科書で、原子核の周りを電子が綺麗な円軌道で回るような下記の図は、実は間違っています。

これは、直感的に原子の構造を理解させるための、あくまでも「イメージ図」に過ぎません。実際の電子は、決まったコースなど走っておらず、原子核の周りを「電子雲」という霧のように、確率的にフワフワと存在しています。惑星モデルは、量子力学という本当の姿を説明するのがあまりに複雑で理解することが難しいため、100年以上前の古いモデルを「分かりやすさ」のために使い続けています。実際、場合によってはそれだけでもいろいろと説明がついたりはします。
人間の細胞の数は60兆個?
「人間の細胞の数は、およそ60兆個である」と学校で習った覚えがあります。これは比較的最近までは正しいと考えられてきた「常識」でした。しかし、現在では、2013年、最新の技術でより精密な計算が行われた結果、「約37兆個」という全く新しい数字が定説となっています。これは、過去の科学が間違っていたというより、技術の進化によって、僕たちの解像度が上がった結果といった方が正しいですが、大きく教科書の内容が変わったことは事実です。当然、さらに研究が進めば、「実は少なかった、多かった」とさらに覆る可能性もあります。意外なほど、我々の信じている物事は信用できないということがわかっていただけるのではないかと思います。

水金地火木土天海冥?
かつて、太陽系の惑星は9つあり、太陽に近いほうから「水金地火木土天海冥」という語呂合わせで覚えていました。水は水星、金は金星、地は地球、火は火星、木は木星、土は土星、天は天王星、海は海王星、冥は冥王星です。しかし、現在では太陽系の惑星は8つとなっています。いったい何が起きたのでしょうか?

実は、2006年に冥王星が準惑星に格下げされるということが起こりました。これは、同等の大きさの天体が周辺に多く見つかり、冥王星のみを特別扱いできなくなった、「公転軌道上から他の天体を排除している」という惑星の定義を満たしていないことが明らかになったからです。結果、太陽系の惑星は「水金地火木土天海」の8つになってしまいました。何を惑星とするかは人が決めているため、科学的な事実が変わった(例えば、星そのものが消滅した)とかいうわけではないですが、それまではわかっていなかった新しい星が発見された結果、「冥王星を惑星とするのは不適切」ということになりました。したがって、教科書が書き換わったことは事実です。ある意味で、先ほどの鎌倉幕府成立の年を何年とするかという話に通じるかもしれません。
人はなぜだまされるのか
ここまでで、教科書のような権威のある情報でさえ、変化し、時には間違いが含まれていることがご理解いただけたと思います。では、なぜ私たちはそうした情報を、時には誤った情報でさえも、簡単に信じてしまうのでしょうか。
その原因は、私たちの脳が持つ特有の「クセ」、すなわち認知バイアスにあります。したがって、誰もがそうなる可能性があり、極端な話、日本人の1%でもだませれば、100万人以上をだませたことになりますから、ときにデマが非常に大きな事件につながることもあります。すなわち、この問題は他人事ではありません。ぜひ、教養として知っておくべきだと思います。
確証バイアス
これは、「自分が信じたい情報を無意識に探し、信じたくない情報を無視してしまう」というものです。例えば、「血液型性格診断は当たる」と信じている人は、「やっぱりB型は自己中だ!」というエピソードは鮮明に記憶するのに、「あの優しいA型の人が、実はすごくワガママだった」という、自分の信念に反する事実は、見なかったことにしてしまいます。しばしば、統計的な信用できるデータを信じない人がいますが、そういう人はこの思い込みのようなものが原因となっているような気がします。
バンドワゴン効果
「行列ができているラーメン屋は、きっと美味しいはずだ」、「みんなが支持しているから、この人が言っていることは正しい」というように、多くの人が支持しているというだけで、それを正しい、良いものだと判断してしまう心理をバンドワゴン効果といいます。SNSの「いいね」やリツイートの数は、まさにこの効果を利用する様にできています。例えば、中身がデマや嘘であっても、いいねの数などが多ければ、疑うことなく信じてしまうことがあり得るということです。よく内容は精査しましょう。
ダニング=クルーガー効果
これは、「能力の低い人ほど、自分を過大評価する」という認知バイアスです。ネットで少し検索して得た知識だけで、まるで自分がその分野の専門家であるかのように語り出す人を見たことがないでしょうか?ふつうに考えて、そう簡単に専門家にはなれないわけですが、彼らは、自分が「何を知らないか」を知らないため、根拠のない自信に満ちあふれています。「無知の知の逆」ということです。この状態に陥ると、専門家の正しい意見に耳を貸さなくなり、間違った情報を盲信するようになります。プロスポーツ選手に、ド素人がアドバイスするようなものです。非常にやっかいです。「自分は人よりも優れている」と信じている人は特に。
権威の存在
我々が間違った事実を信じてしまう理由として、権威による裏付けも存在すると思います。
例えば、骨董品に関して、「有名な鑑定家の○○先生が本物といったから、本物なのだろうと思う」といったことです。一方で、実際に起こった事件ですが、安物のワインを高級そうに装った結果、しっかりとしたコンテストで賞を取ってしまったということがありました。周りも専門家だらけで、周りの人がいいというからいいのだろうという風に考えてしまったのだと思いますが、専門家だからといって常に正しいというわけではないということは、よく認識しておくべきだと思います。
また、オールドメディア(新聞、テレビ)などは、長いこと信頼されてきており、教科書などを見ても、「SNSの情報は信じないようにしよう」とか、「新聞などは信用できる」といった趣旨の記述を見かけることがあります。一方、本当にそこまで信用してよいのかわからないという面もあります。例えば、報道の世界には、「報道倫理」という公平性などの原則がありますが、偏向報道をしている例は過去にごまんとあります。そもそも、すべての情報を報道することは物理的に不可能なので、どうしてもメディア側が恣意的に選ぶことになります。そういう面でも、実はメディアの言うことがすべてとは限りません。
いずれにせよ、意外と「信じておけば間違いない」ものは少ないということを、認識しておくべきだと思います。
結局、どうすればいいのか
では、こうした認知バイアスを乗り越え、誤った情報に振り回されないためには、どうすればいいのでしょうか。その答えが「クリティカルシンキング」です。個人的に良いと思っている、具体的な方法をご紹介いたします。
情報源を問う
まず、その情報は「誰が」発信しているのかを意識しましょう。個人なのか、組織なのか、その発信者に専門性はあるのかなどです。そして「何のために」発信しているのか、その背景にある意図を考えてみましょう。よく、詐欺CMなどがネットだと流れてきますが、一般に知られているものよりもはるかに良い条件のものが多いと思います。妄信せずに、本当にそれだけの質があるのか、それだけ安いのかなどはしっかりと考えてみる必要があると思います。
一次情報を探す
「○○という研究結果が出た」というニュースを見たら、その情報だけを鵜呑みにせず、「元のデータはどこにあるのか?」と探すクセをつけましょう。また聞きや要約は、発信者の解釈が加わっている可能性があります。さらには、実は古い情報で、間違いだと証明済みの可能性もあります。鵜吞みにしないようにしましょう。
反対意見を考える
自分の考えを支持する情報ばかり集めていては、確証バイアスから逃れられません。自分が「正しい」と思っていることに対して、あえて反対の意見や批判的な視点を探してみましょう。異なる角度から見ることで、考えの偏りや見落としていた点に気づくことができます。ディベートなどで、相手の気持ちを考えてみるのと同じです。
感情と事実を切り分ける
その情報に触れたとき、自分はどう感じたかを客観視してみましょう。「これは信じたい情報だ」と感じた時こそ、一度立ち止まることが重要です。感情的な反応と、客観的な事実を意識的に切り離して考えるトレーニングをしましょう。世の中には、感情論で客観的なデータなどは無視する人が結構いるように思います。例えば、自分はつまらないと思ったものが、多くの人にとってはハマる作品である可能性もあります。それにもかかわらず、「自分を含め大半の人はこの作品をつまらないと感じている!」という風にSNSなどで発信する人もいます。自分がそういう風にならないようにしましょう。
おわりに
この記事で紹介した事例は、決して過去の笑い話ではありません。今この瞬間も、私たちの「常識」は静かに更新され続けています。近い将来、教科書が大きく書き換わる大発見があるかもしれませんし、学説が大きく変わるかもしれません。
クリティカルシンキングは、ただ疑うというだけのものではありません。情報が無数に存在している現在、正しく物事を考えるうえで必須の技術といえるでしょう。ぜひ、本記事を参考に、身の回りの「当たり前」に対して、「ほんとうにそうなのか」という風に考えていただければと思います。
クリティカルシンキングにより、もしかしたらハイストでセオリーになっている戦法よりもずっと良い戦法が見つかるかもしれません。ぜひ、いろいろなところで試していただけたらと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。他の記事(特に歴史カードゲームHi!story(ハイスト)の思い)や、本家のハイストの方もよろしくお願いいたします。
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