放課後のハイスト
受験生のわが子が「焦っていない」…?:不安な親が知るべき子どもの静かな成長

受験生のわが子が「焦っていない」…?:不安な親が知るべき子どもの静かな成長

投稿日: 2025年11月20日
最終更新日: 2025年11月20日
むろむろ

受験生の子が「焦っていない」親の不安へ:元受験生が贈る適切なプレッシャーのかけ方

こんにちは。ハイストライターのムロです。受験シーズン、親御さんにとって最も不安な瞬間の一つは、「わが子が全然焦っていないように見える」瞬間ではないでしょうか。
周りの家庭から「塾の追い込みが大変」「深夜まで頑張っている」といった話が聞こえてくると、「うちの子、このままで大丈夫かな」と胸がざわつく——そんな夜、きっと誰にでもあります。

この記事を書いている私自身が受験生だったとき、焦らない私を見て親が不安を抱いていたことを知っています。(当時もその感情を薄々勘付いていましたし、後から本当に精神的に大変だったと聞かされました。)
しかし、私にとってその「焦りのなさ」は、「受かることを信じているからこその静かな自信」 でした。
この記事では、そんな経験をもとに、親御さんの不安を「適切なプレッシャー」としてお子さんの力に変えるヒントをお伝えします。

1. 「焦りのなさ」は、必ずしもサボりではない

まず、親が不安になるのは自然なことです。
焦っている=本気、落ち着いている=油断。
どうしても、そんなふうに見えてしまいますよね。

しかし心理学的には、人は大きなストレスに直面すると、様々な反応を示し、その個人差は大きいとされています。ここでは具体的に 「戦う」「逃げる」「固まる」 というよく起こる3つの反応を取り上げてみます。「焦る」子は戦うタイプ、「ゲームや動画に逃げる」子は逃避タイプ、そして「静かに集中している」子は、落ち着いた適応タイプに分類されます。
つまり、「焦っていない=やる気がない」わけではありません。むしろ、頭の中でやるべきことを整理し、余計なエネルギーを外に漏らしていない状態。それこそが、受験期における最も理想的なコンディションなのです。

2.「焦り」をエネルギーに変えられる子の特徴とは?

では、同じように焦らない子の中でも、なぜ結果が違ってくるのでしょうか。
その違いを生むのは、「内発的動機づけ」の有無です。

心理学者デシとライアンが提唱した自己決定理論によれば、人が意欲的に行動するためには「自律性」「有能感」「関係性」の3要素が必要です。
簡単に言えば、

  • 自分で選んでいると感じられる(自律性)
  • やればできる感覚を持てる(有能感)
  • 支えてくれる人がいる(関係性)

この3つがそろっている子ほど、外から焦らされなくても自分のペースで燃え続けます。
逆に、親が過剰に焦るとこのバランスが崩れ、「やらされている」という感覚に変わってしまうのです。

したがって、親がまず意識すべきは「焦らせる」ことではなく、「子どもが自分で決めて進めている感覚」を保つことなのです。この感覚がある限り、子どもは自分の力で立ち上がれます。

補足:自己決定理論

この自己決定理論には実は内発的動機づけだけではなく、外発的動機づけと呼ばれる、「外部からの報酬や罰則といった働きかけを起因として、行動すること」についても言及されています。
よくある例としては「テストでいい点を取ったらご馳走だよ」、「宿題頑張ったらゲームしていいよ」などといったことが挙げられます。
しかし外発的動機づけだけではモチベーションを長く保つには、「自分がやりたいからやる」 という内発的な理由が欠かせません。
だから、親としてはご褒美を「きっかけ」に使うくらいがちょうどいいのです。
行動を「褒めて終わり」にせず、「どうやって頑張ったの?」とプロセスを言葉にしてあげる。
それが、内発的な意欲へとつながります。

この記事ではできるだけ内発的動機づけに導くような方法に限定して話しています。

3. 【客観チェック】静かな集中と現実逃避の分かれ目

では実際に、お子さんが“静かに集中している”のか、“現実逃避している”のか。
ここを見極めるための小さなチェックポイントを紹介します。

点数をつけるためではなく、「褒めるサイン」と「軌道修正のサイン」 を見つけるための参考にしてください。

計画性について

  • 週に5日以上、自分で決めた勉強開始・就寝時間を守れている → 褒めるべきサイン
  • 計画表が立てっぱなし、行き当たりばったりの勉強 → 軌道修正のサイン

課題の処理について

  • 課題を締め切り前に終えている/復習のサイクルが一定 → 褒めるべきサイン
  • テスト直前に慌てて詰め込む/課題の山を放置 → 軌道修正のサイン

休憩の質について

  • 休憩時間を決めてメリハリをつけている → 褒めるべきサイン
  • スマホを触りながら「ちょっとだけ」が増えている → 軌道修正のサイン

学習ツールの痕跡

  • 赤本やノートに付箋や書き込み、計算の跡が増えている → 集中の証
  • 教材を開いているだけで書き込みが少ない → 注意サイン

このような「行動の小さな痕跡」を観察することで、子どもの勉強は“静かだけど確実に進んでいる”のか、それとも“止まっている”のかが見えてきます。

4. 【対応策】親が担うべき二つの役割

お子さんが静かに集中している場合も、現実逃避の傾向が見える場合も、親御さんには適切な関わり方が求められます。
親が今担うべき役割は、主に以下の2点です。

A. フィジカル・サポート(環境整備のプロに徹する)

家庭を「学びやすい場所」にすること。
それは、親にしかできないサポートです。

・栄養のある食事を整える

・部屋の温度・照明・音のノイズを整える

・家庭内のストレスを減らす

こうした環境の静けさは、子どもの集中力を支える“見えない土台”です。
これは過保護ではなく、戦略的なサポートです。
受験期の家庭は、まさに「チーム」です。

B. メンタル・バッファ(心の盾と動機づけ)

もう一つの役割は、子どもの心を守ること。
メンタル・バッファとして、「結果はどうあれ、あなたはあなたのままで大切な存在」という安心感 を、態度で伝えましょう。

逆に「現実逃避」が見られる場合は、叱るのではなく、プレッシャーの質を変えることが大切です。
感情的な叱責ではなく、「今週の計画、ここまでは終わっているはずだけど、どんな感じ?」「何かサポートできることある?」というように、事実ベースの問いかけをするのが効果的です。
これは「監視」ではなく「伴走」です。

5【親自身の心のケア】焦りを言葉に変換する

ここで一つ、見落とされがちな大切な視点があります。
それは、「親もまた受験を戦っている」という事実です。他の家庭の話を聞くたび、SNSで受験情報を見かけるたび、
心の中で不安と焦りが渦を巻く——それは当然のことです。
このように抱えてしまった「不安」「焦り」「孤独」を我慢しすぎると、無意識に子どもへと投影されてしまうことがあります。

おすすめは、親自身の「不安の棚卸し」 をすることです。
ノートに「今、自分が不安に思っていること」「どうしてそう感じるのか」を書き出してみてください。
自分の感情を「言語化」するだけで、脳はそれを「整理済みの情報」として扱い、安心を取り戻します。

子どもの心を守るためには、まず親自身の心に“余白”をつくることが必要です。そして自分の心を整理できる親ほど、子どもに穏やかなエネルギーを渡せます。

6. 元受験生からのメッセージ:親からの適度なプレッシャーは「愛情」だった

僕自身、親に「そこまで焦らなくて大丈夫なの?」と聞かれたとき、
少しだけ「ああ、親は僕のことを真剣に見てくれているんだ」と感じ、それが静かなモチベーションに変わった経験があります。

親からのプレッシャーは、ときに重荷になることもあります。
しかし、それが 「感情ではなく、行動を見ている」 プレッシャーであれば、
それは紛れもなく「信じているからこその期待」という愛情の形になります。

焦らないお子さんを見て不安になるのは、愛情がある証拠です。
その不安を、「無言の信頼」と「具体的なサポート」 に変えることで、
お子さんはあなたのまなざしに守られながら、自分のペースで伸びていくでしょう。

最後に

受験とは、親子の信頼関係が試される時間でもあります。
焦ることも、不安になることも、どちらも自然な反応です。大切なのは、その感情を 「叱る」ではなく「支える」エネルギーに変えることです。

お子さんが静かに頑張る背中を、穏やかに見守ってあげてください。そして、見えないところで一緒に戦っている自分自身のことも、少しだけ、褒めてあげてください。
それが、何よりも強い「合格への伴走」になります。

Loading...

ハート
0 /10
合計 0 いいね

感想フォーム


この記事を書いた人

むろ
むろ

農学部所属、中高は関西の男子校です。主に受験や教育にまつわる記事を書きます。

ライターに応募

ランキング

ランキングページへ

このライターの他の記事

おすすめ記事

他の新着記事