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半導体って結局なに??? 小学生にもわかるガチ授業【後編】

半導体って結局なに??? 小学生にもわかるガチ授業【後編】

投稿日: 2025年09月18日
最終更新日: 2025年09月18日
RopiRopi

はじめに:ドーピングってなに?

【前編】で、私たちは半導体の不思議な性質が、電子という粒子が持つ「仲間嫌い」という、量子力学の奇妙なルールに支配されていることがわかりました。

熱や光というエネルギーを与えられると、満員電車(価電子帯)に縛られていた電子が、がらがらのグリーン車(伝導帯)へとジャンプし、自由に動き回れるようになる、これが、電気の流れを半導体が制御できる理由でした。

一般的な物質である導体では電気が流れすぎ、絶縁体では流れにくすぎたわけですが、半導体はうまくオンオフが切り替えられるわけです。

しかし、これだけでは、AIやスマートフォンを動かす超高速な計算は到底不可能でした。そこで人類は、このミクロの世界のルールを逆手に取り、より積極的に、そして意のままに半導体を操るための、ある「魔法」ともいえる方法を編み出しました。

それは、完璧に純粋な半導体の結晶に、ほんのわずかな不純物を計画的に混ぜ込むという技術です。この【後編】では、このドーピングと呼ばれる魔法が、どのようにして半導体に新たな能力を授け、現代デジタル社会の言語である0と1を生み出す究極のスイッチトランジスタを創造したのか、その核心に迫ります。

それではよろしくお願いいたします。

注意

この記事では、【前編】と同様に、量子の世界で起きる非常に複雑で直感に反する現象を理解しやすくするために、多くのアナロジー(たとえ話)を用います。例えば、電子の状態を「マンションの部屋」に例えたりします。これらのアナロジーは、概念の骨子を掴むための強力なツールですが、現実の物理現象を完全に正確に描写するものではありません。あくまで、本質を理解するための一つの「モデル(模型)」として捉えていただきますよう、お願いいたします。一方で、本質をしっかりととらえた説明にはなっていると自負しています。多くの方々が半導体に対する理解を深めていただけたらうれしく思います。

第5章:「不純物」を混ぜるとは?

理論モデルを考える前に、まずは科学の作法に則り、新しい地図、すなわち動かすことのできない実験事実から始めましょう。

にわかには信じがたいですが、極めて純粋な半導体の結晶に、ほんのわずかな量の別の種類の原子(不純物)を混ぜ込むと、その半導体の電気の流れやすさが、何百万倍も劇的に変化します

この魔法をかける大前提として、出発点となる半導体、すなわちシリコンという元素の結晶は、考えうる限り完璧に純粋でなければなりません。その純度は99.999999999%(9が11個並ぶことからイレブンナインともいわれます)という、驚異的なレベルに達します。これは、全地球人の中に一人だけ宇宙人が混じるようなレベルです

なぜなら、もし意図しない不純物が少しでも混じっていれば、これからかける魔法の効果がめちゃくちゃになってしまうからです。この繊細な作業は、空気中のチリやホコリが一切存在しないクリーンルームという特殊な環境で行われます。半導体にとって、目に見えない小さなホコリ一粒ですら、都市の真ん中に巨大な岩が落ちてくるような大災害となってしまうのです。半導体の大きな工場などに見学に行くと、いかにクリーンルームの管理が徹底されているのかがわかります。

この、半導体に意図的に不純物を加える「魔法」の技術を「ドーピング」といいます。この究極の純粋さというキャンバスの上に、計画的にインクを一滴垂らすことで、全く新しい絵を描き出すことができます。これが、ドーピングの本質です。次の章で、なぜそのようなことが起こるのか解説していきます。

第6章:ドーピングの原理

目の前には「純粋な結晶に、意図した不純物を混ぜると、電気が流れやすくなる」という不思議な事実があります。私たちの武器は、電子が暮らす巨大マンション群に例えられたエネルギーバンドのモデルです。

半導体が働くための「ちょうど良い温度」

ドーピングの話に入る前に、半導体と温度の重要な関係について触れておきます。

【前編】で、半導体は熱のエネルギーで電子がジャンプすると説明しました。では、もし熱が全くない絶対零度の世界だったらどうなるでしょうか?

その場合、電子はジャンプするためのエネルギーを全く得られません。たとえドーピングをしても、電子は動けず、半導体は電気を全く通さない完全な絶縁体として振る舞います。

逆に、温度が高すぎるとどうなるでしょうか?

スマートフォンを長時間使うと熱くなり、動作が遅くなる経験はなかったでしょうか?あるいは、重いゲーム(FPSやフォートナイトのような類のゲーム)をやったときも起こったかもしれません(僕は経験があります)。あれは、熱のエネルギーが大きくなりすぎて、ドーピングによって用意された電子だけでなく、満員電車(価電子帯)にいるたくさんの電子たちが、秩序なくグリーン車(伝導帯)へとジャンプし始めてしまうことにより起こります。これにより、制御されたオン・オフの状態が曖昧になり、計算エラーが起きやすくなるのです。そのため、処理が追い付かず、カクカクすることになります。なお、特に性能が必要な高性能なゲーミングPCなどは高性能な冷やすための装置がついており、この熱による影響を抑えるようになっています。

つまり、半導体デバイスが私たちの世界でこれほど活躍しているのは、常温という温度が、その性能を最大限に引き出すのにちょうど良いエネルギーを供給してくれるという、幸運な偶然も味方しているのです。実際、周辺の温度というものは非常に重要で、例えば、ものすごく冷やすと、今話題の量子コンピューターなどを動かすことにもつながります。それだけ、温度という概念は、科学において重要なものなのです。

①荷物が一つ余る?n型半導体の誕生

さて、ドーピングの仕組みです。純粋なシリコンという平和なマンション群に、「周りの住民よりも、荷物を一つ多く持っている」新しい住民(例えば、元素周期表でシリコンのお隣さんのリン原子)を、ごく少数だけ引っ越させます。

この新しい住民は、周りと問題なく暮しますが、一つだけ余った荷物である電子が出てしまいます。この余った荷物は、エネルギー的に見ると、グリーン車(伝導帯)のすぐ下の階、階段の踊り場あたりに置かれている状態になります。

満員電車から直接グリーン車にジャンプするのは大変でしたが、踊り場からなら、常温の熱エネルギーというちょっとした後押しだけで、簡単にグリーン車に荷物を運び込めます。

その結果、私たちは熱や光という大きなエネルギーを与えなくても、初めからグリーン車を自由に動き回れる荷物(自由電子)を、大量に作り出すことに成功したのです!

この自由に動ける電子が、電気を運ぶ主役(キャリア)となります。電子はマイナスの電荷を持っているので、このタイプの半導体をn型半導体と呼びます。

②部屋が一つ足りなかった?p型半導体の誕生

今度は、マンション群に「周りの住民よりも、部屋に入るための荷物が一つ足りない」新しい住民(例えば、元素周期表でシリコンの左上にあるご近所さんのホウ素原子)を引っ越させてみましょう。

この住民は、自分の部屋に入居しようとしますが、荷物が足りないため、部屋の中にぽっかりと空席が一つできてしまいます。この空席は、満員電車(価電子帯)の中にできた絶好のスペースです。隣の席の乗客(電子)が、すかさずその空席に移動し、また新しい空席が生まれる…という玉突き現象が起こります。

その結果、まるで空席そのものが、満員電車の中を自由に動き回っているように見えます。科学者たちは、この動ける空席を正孔(ホール)と名付け、プラスの電荷を持った架空の粒子として扱いました。こうして、私たちは正孔という、もう一つの電気の運び手(キャリア)を手に入れました。この正孔が主役となる半導体をp型半導体と呼びます。

このように、電子が多いか少ないか変化するだけで、もともとの状態よりも電気が大幅に流れやすくなることになります。これが、ドーピングによる効果です

第7章:最強コンビ?

さあ、科学者たちは、たった今作り出した二つの強力な道具、n型半導体とp型半導体を、いよいよ合体させます。ここから、現代技術を支える最強の電子部品が生まれるのです。

① ダイオードってなに?

n型半導体とp型半導体をくっつけたダイオードは、電気を一方通行にしか流さない関所の役割を果たします。n型の電子とp型の正孔が接合面で打ち消し合い、空乏層というバリアを作ることで、この性質が生まれます。

この単純な構造は、光と電気を変換する驚くべき応用を生み出しました。

なお、「半導体」のことを、このダイオードのことだと思っている人がいるようですが、ダイオードは半導体の一種であって、ダイオード=半導体ではありません。ダイオードを東京、半導体を日本と思うと理解しやすいと思います。半導体のことを説明する際にダイオードのことだけを説明したら、日本のことを説明する際に、東京のことだけを説明するのと同じになるということです。

LED(発光ダイオード)

ダイオードに順方向の電気を流すと、n型の電子とp型の正孔が接合面で次々と出会い、くっついて消滅します。プラスとマイナスでゼロになるということです。これは、グリーン車にいた電子が、満員電車の空席に落ちるようなものです。このとき、電子が持っていたエネルギーが、光の粒(光子)として放出されます。これがLEDが光る原理です。その光の色は、バンドギャップという落差の大きさによります。過去には、青色の光を出せるLEDを作れず困っていましたが、中村修二博士が見事作り出すことに成功し、ノーベル賞を獲得しています。それだけすごい技術なのです。今ではライトなどとして、さまざまなところで利用されています。省エネで環境にやさしいというのが大きな特徴です。

太陽光発電(太陽電池)

これはLEDと全く逆の現象です。太陽の光(光子)がダイオードの接合面に当たると、そのエネルギーが満員電車の電子を無理やりグリーン車へと蹴り上げます。これにより、電子と正孔のペアが新たに生まれます。そして、接合面に元々ある電場が、この電子をn型側へ、正孔をp型側へと引き離すことで、外部に電流を取り出すことができるのです。これは、光の力で動く電子のポンプと言えるでしょう。今では様々なところで太陽光パネルは設置されており、天気さえよければ発電可能な便利な再生可能エネルギーとして利用されています。こちらも環境にやさしいです。

② トランジスタ ― デジタル社会を創造した「究極のスイッチ」

そして、いよいよ半導体の王様、トランジスタの登場です。これは、n型とp型をn-p-nやp-n-pのようにサンドイッチ状に重ねたもので、「小さな電気信号で、大きな電気の流れをオン・オフできる」というスイッチング作用を持ちます。

巨大なダムの水門に、小さな蛇口がついていると想像してください。この蛇口をひねって少量の水を流すだけで、巨大な水門が開き、膨大な水が一気に流れ出す。トランジスタは、これと同じことを電気の世界で、1秒間に何十億回という超高速で実行できる、究極の電子スイッチなのです。この、「少ないエネルギーで、膨大な電気を流すことができる」という点が、トランジスタのすばらしいところです。すなわち、結果的に電流を増幅することができます。イメージとしては、100円を入れたらおつりとして1万円が返ってくるようなもので、うまく組み合わせることで、さまざまな機能を生み出すことができます。

第8章:「0」と「1」ってそもそもなに?

科学者たちは、トランジスタという究極のスイッチを手に入れ、歴史的な閃きを得ます。

このスイッチの『オフ』の状態を数字の『0』に、『オン』の状態を数字の『1』に対応させれば、あらゆる情報を表現し、計算できる機械が作れるのではないか?

ということです。これが、あなたが今見ている画面のすべてを作り出しているデジタル技術の根源的なアイデアです。

「組み合わせ」がもつ力

たった一つのトランジスタ(スイッチ)は、0か1の2つの状態しか表せません。これでは、部屋の電気をつけたり消したりするくらいしかできません。

しかし、もしこのスイッチが2つになったらどうでしょう?

(0, 0)、(0, 1)、(1, 0)、(1, 1)

の4通りの状態を表現できます。これなら、ゲームのコントローラーの上下左右の動きを表せそうですね。

では、スイッチが3つなら? 2×2×2で8通りです。4つなら16通り。スイッチが一つ増えるたびに、表現できる情報の種類が2倍、2倍になっていくことがわかります。たった8個のスイッチ(これを8ビットと呼びます)があるだけで、256通りの状態を表せます。アルファベットや数字、記号をすべて割り当てても、まだ余裕があります。同様に、実は人間の手の指10本があれば、曲げている状態を0、伸ばしている状態を1などと決めることで、1024まで数えることができることがわかります。10本だからといって、10までしか数えられないわけではないんですね。うまくやれば、指を折るだけで小学校低学年の足し算と引き算はすべてできてしまうかもしれません。

さて、スイッチが24個(24ビット)にもなると、1000万通りを超えます。これは、人間の目が区別できる色の数をはるかに超えています。これが、現代のゲームや写真が、本物と見分けがつかないほどリアルな理由です。これが、昔のゲームのキャラクターが、ドット絵のようなグラフィックが悪かったものだった理由の一つです。すなわち、使えるスイッチの数が少なかったからなのです。最近、VR(バーチャルリアリティー)が流行ってきていますが、さらにコンピューターの性能が上がっていけば、よりリアルな仮想現実が実現するかもしれません。

この組み合わせによる爆発的な表現力の増大こそが、デジタル技術の心臓部です。

0と1で動くゲームの世界

では、この0と1の組み合わせで、実際にゲームのキャラクターはどのように動いているのでしょうか?マリオのような2Dゲームを例に考えてみましょう。

あなたがコントローラーのジャンプボタンを押したとします。その瞬間、ゲーム機の中ではこんなことが起きています。

  • 入力信号:コントローラーから「ジャンプボタンが押されたぞ!」という信号が、1という数字としてゲーム機の頭脳(CPU)に送られます。

  • 状態の更新:CPUは、ゲーム開発者があらかじめ書いたプログラム(指示書)を読み込みます。「もし、ジャンプボタンが1なら、マリオの状態を『ジャンプ中』という状態1に変えなさい」という命令を見つけます。

  • 計算:CPUは、マリオの画面上の位置情報(例えば、横に120、上に50など、これらも全て0と1の数字の列で記録されています)に、「上方向に移動する」という計算を加えます。

  • 出力:計算結果に基づいて、画面のどの位置に、どの色のマリオの絵を表示するかを決定し、テレビに信号を送ります。

これら一連の作業が、何百万、何千万というトランジスタのスイッチングによって、1秒間に60回という目にもとまらぬ速さで繰り返されることで、マリオはあたかも生きているかのように、画面の中をスムーズに走り、ジャンプすることができるのです。

マリオの位置だけでなく、敵キャラクターのクリボーがどこにいるか、コインの枚数はいくつか、残り時間は何秒か、ステージのどの場所にブロックがあるか…ゲームの世界のすべての情報が、膨大な数の0と1の組み合わせとして、半導体チップの中に記録され、超高速で書き換えられ続けているのです。

プログラミングの世界

そして、これだけ複雑に、いろいろなことが表現する手法が、プログラムです。そして、プログラムをつくることを、プログラミングといいます。

おおざっぱには、こういう場合にはこうしろ、ああいう場合にはああしろといったようなことをすべて命令として決めておきます。

例えば、

「青信号なら進め、赤信号なら止まれ」

といったようなものです。こういったものをものすごく複雑にすると、マリオのようなゲームが完成します。

一方、いろいろなことができるようになった代償として、複雑すぎることから、製作者の想定外が起こることがあります。それがいわゆるバグです。壁をすり抜けるとか、固まって動かなくなるとか、異常にスピードが速くなるとかいろいろなことが起こります。なお、RTA(ゲームの最速クリアを目指す協議のようなもの)では、バグ技をうまく使うことで、無理やりエンドロールなどに飛ぶという方法でクリアすることがあります。YouTubeなどにいろいろと動画が上がっているので、見てみると面白いと思います。また、「完璧なプログラム」を書くことの難しさも同時に体感できます。

第9章:神の予言

1965年、インテル社の創業者の一人であるゴードン・ムーアは、ある驚くべき経験則を発表しました。

半導体チップに詰め込めるトランジスタの数(性能)は、およそ2年で2倍になる

これを「ムーアの法則」といいます。当初は過去のデータから未来を予測した一つの考察に過ぎませんでした。しかし、この法則は、世界中の半導体メーカーや研究者たちが達成すべき目標となり、そのペースに乗り遅れまいと熾烈な開発競争を繰り広げた結果、まるで物理法則であるかのように、50年以上にわたって実現し続けたのです。これは、科学技術史における自己実現した予言として知られています。

この法則を実現するための中心的な技術が、集積回路(IC)を作るためのフォトリソグラフィです。これは、巨大な回路の設計図を、写真のように特殊な光を使ってシリコンの板に焼き付け、化学薬品で不要な部分を溶かしていく作業を、何十層にもわたって繰り返す、超微細な版画技術のようなものです。

ムーアの法則に従うためには、より細かい回路を描く必要があり、これを微細化と呼びます。この微細化こそが、半導体の性能を爆発的に向上させてきた魔法の正体でした。アポロ11号を月に運んだコンピュータよりも、あなたのポケットにあるスマートフォンの方が、何億倍も高い計算能力を持っているのは、まさにこのムーアの法則のおかげなのです。また、昔は何十万もしたパソコンですが、それよりもはるかに小さくて、性能も凌駕しているパソコンが今では数万円で買えてしまいます。それだけ、爆発的な性能向上がありました。ここまで、大幅に変わることはまれだと思います。

おわりに

ここまでで、【前編】の冒頭での疑問、「なぜそんなことができるのか」、「なぜそういうことができると都合がよいのか」がわかっていただけたかと思います。

簡潔にまとめると、

  • ふだんは価電子帯という「満員電車」で動けなくなっているが、伝導帯という「グリーン車」に電気や光によって飛び移ることができるから

  • 電気が流れているときを1、流れていない時を0などとすることで、膨大なパターンを表現できるから

となります。

これにより、我々はスマホやゲームをストレスなく使うことができるわけですね。

科学さまさまというわけです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。他の記事(特に歴史カードゲームHi!story(ハイスト)の思い)や、本家のハイストの方もよろしくお願いいたします。

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この記事を書いた人

Ropi
Ropi

「放課後のハイスト」ライター

東京大学で量子デバイスの研究をしています。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』最終的に7回観ました。文句なしの神映画でした。
本編も最後まで観ましたが、非常に良かったと思います(特にマチュ、シャア、シャリア)。

よろしくお願いします。

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