
「ちゃんと負ける」は難しい?最後まで楽しいゲームとは
はじめに
最近、「ちゃんと負けられない人」が増えているという話を小耳にはさみました。確かに、オンラインゲームでも、負けそうになると切断したり遅延行為をしたりと場を荒らす人が少なくないように感じます。
では、そのような「荒らし」に至る心理はどのようなものなのでしょうか?「勝ち」「負け」の心理や、ゲーム自体の構造にも触れながら考察していきたいと思います。
「勝ち・負け」の心理学
一般に、人は成功を内的要因(自らの能力や技能)に帰属し、失敗を外的要因(他者の能力や運)に帰属する傾向があります。
これは自尊心や自己肯定感を維持・向上させるためにある仕組みで、要するに勝った時に「自分が強いから勝った」と考えれば自己肯定感は上がり、一方で負けても「相手が強かった、運が悪かった」と思えばそれは自分のせいではないので自己肯定感は下がらず、傷つかずに済みます。
つまり、負けたときほど他責の思考になりがちなのです。
ただ、ゲームの場面においてこの思考は必ずしも得策とはいえません。
たしかに負けたのは自分のせいではないので自己肯定感は維持できますが、そこから得るものがないので面白さを感じづらいのです。
そこで大切なのが自責の思考です。ここでいう自責とは、「負けた原因の一部に自分があると考える」思考を指すこととします。
例えばボードゲームであれば「この駒を動かしたから次に相手が良い手を打ててしまった」、カードゲームであれば「自分のデッキはもっと改善の余地があるのではないか?」などと反省・改善に向け試行錯誤することで、「次回は勝ちたい」という意欲にもつながります。
「荒らし」行為はなぜ起こるのか?
背景の考察
そもそも、負けることは自己肯定感を下げる行為です。先ほどは人間の自然な反応として「相手が強かった・運が悪かったから仕方がない」と考えるというものを紹介しましたが、この思考のもとでも多少の自己肯定感の低下は発生します。それすらも認めたくないとなると、「勝負を元からなかったことにする・より自分の勝負における責任から逃れる」方法として回線の切断などの「荒らし」行為が行われることとなります。
このような「感情のコントロール」ができない人(特に子供)が近年増加している背景として、「低年齢からのタブレット使用」が指摘されています。
Fitzpatric et al.(2024)によると、子どもが感情の制御を学ぶのには主に2通りあり、親の感情の制御法を観察するか、親から感情の制御方法に関する「感情のコーチング」を受けるかだといいます。タブレットの使用はこの2つの学習メカニズムを妨げ、学習機会を減らし、感情を制御する手法の発展を損なう可能性があるとしています。
実際、論文内の調査では、3歳半でのタブレット使用が4歳半時の怒りっぽい傾向と著しく関連しており、さらに、4.5歳の時に怒りっぽくイライラしていた子どもは、5.5歳の時にもタブレットを頻繁に使用する傾向があることも示されました。
ネットやソーシャルメディアの普及・発展により、特に若年層における社会性の低下や人を惹きつける「刺激の強い」コンテンツの興隆が顕著になっています。ゲーム実況などにおける切断・台パンなどの行為もこれにあたります。それらを規制すべきとは言いませんが、あくまでエンタメとして流して「動画内でやっているマナーに欠ける行為は、現実ではやってはいけないものだ」と判断できる受け取り手側の能力が必須となっています。
ゲームの観点から見る「つながり」と「荒らし」
個人的に、こういった「荒らし」行為が行われるのはオンラインゲームが大半なように思います。切断等を行う手段が存在することも大きいですが、実際の対戦相手が目に見えないという要素もまた大きいのではないでしょうか。
匿名な状況下で人間の攻撃性が上がる様は近頃のSNSを見ていれば想像に難くないと思います。
対面開催の大会だと荒らしが起こりづらいことを考えても「他人の目」や「対戦相手とのつながり感」というのは一つ大きな要素かもしれません。
「ちゃんと負ける」と精神的成長
感情のコントロールがまだおぼつかない子供にとって、「ちゃんと負ける」、つまり自分の負けを受け入れて勝者をたたえることは意外と難しいものです。
よく大人と子供がゲームで対戦した際に大人がわざと負けてあげる場面を見かけますが、こういった対戦の場では「自信をつけてあげること」と同じくらい「負け」を学ぶことが大切だと考えています。
人生、常に上手くいくわけではありません。様々な挫折・敗北を経験し、それでも立ち上がって進み続けた先に真の成功はあるものです。
負けを学ぶことは、こういった社会の中で生きていく上での人間性や、投げ出さない力を育んでいくうえで重要だといえます。
この力の成長に手っ取り早いものこそが「対面型のアナログゲーム」ではないでしょうか。
例えば囲碁ならば、中押し勝ちの場合決着は投了(=自分で負けを認める)によってなされます。また、その後の感想戦(二人で一局を振り返って好手や悪手について検討する時間)までセットであることが多いです。
こうした対面競技ほどマナーやルールが明確化されており、人の目もあってそれらが守られやすいように感じます。つまり、「荒らし」の発生しづらい環境下で自然に「勝ち」と「負け」を学ぶことができるのです。
また、感想戦は内省や次へのモチベーションとなるだけでなく、対戦相手とのコミュニケーションの場にもなるので積極的に行われていくべきでしょう。
より「楽しい」ゲームとは?
「荒らし」が起こりづらいとは、すなわちそのゲーム自体の楽しさ・面白さにも起因するのではないでしょうか。
室山ら(1991)によると、始めは勝っていて逆転で負けた人の方が、初めからずっと負けている人よりもゲームを面白く感じていました。
負けそうな場面がずっと続くときほどつまらないものはないですし萎えますよね。
一方逆転で負けたときの方がかんしゃくを起こしやすいのでは?と直感的に思うかもしれませんが、それは油断や自分の弱さへの怒りなど少なからず自分に対して矢印が向いている状態なので反省、対策、モチベーション向上につながっていきやすいのです。
ここから提案できる「楽しい」ゲームの形として、あった方が良いであろう要素を2つほど紹介します。
まず、「負けが確定してから敗北するまでの時間が短い」こと。先述の通り、「負けっぱなし」の状態はかなりつまらないものです。昔からあるゲームだと試合時間が長い分、投了の制度を設けることでこれを対策しているように感じます。
次に、「ある程度逆転が可能」なこと。最後までどっちが勝つか分からない試合展開は見ていてもハラハラドキドキしますよね。テレビのバラエティー番組でもよくこの手法は用いられていて、最終問題の得点を大きくして逆転可能にすることで早々に勝敗の大勢が決して視聴者が離れていく(あるいは、出演者のモチベーションが下がる)のを阻止しています。
他にも某レーシングゲームで下位のプレイヤーほど強いアイテムが引きやすくなっていたりするのもこれに相当します。
このように、よく考えると既存のゲームでもプレイヤーが最後まで楽しんでプレイできる工夫が随所にちりばめられていることが分かります。
おわりに
では、子供に買い与えるならどのようなゲームが良いのでしょうか?
個人的にはやはりまず「対面型のアナログゲーム」をおすすめします。トランプやオセロ、チェスやトレーディングカードゲームなど様々な種類がありますが、どれでも構いません。
「コミュニケーションツールとしてのゲーム」との意味も含めて、「対戦」におけるルールやマナー、特に「負ける」ということを学ぶ上でも対戦相手が目の前にいることは大事だと思います。
オンライン対戦はこうしたマナーや感情のコントロールを学んでから潜るのが良いのではないでしょうか。
また、戦術が絡む対戦の場合はぜひ感想戦を行ってあげてください。反省して改善するプロセスを学ぶことにもつながります。
おまけ
私たちHighstoも、子供たちに楽しんでもらえるカードゲーム作りに励んでいます。
セットの不確定要素や後半は1ターンで盤面がかなり進むことから勝敗が確定した段階から決着までが短く、デッキの組み方にもかなり工夫の余地があります。
*詳しいルールはこちら
2025年8月には、新シリーズ「スペシャルセット 三国志 覇道の魏 仁義の蜀 守成の呉」が発売されます。新ギミック「事変カード」も導入され、逆転が発生しやすくなりより多彩な戦術がみられることとなるでしょう。
また、定期開催されている大会や体験会などのイベントでは100人以上のの子供たちが一堂に会し、時間いっぱいまで対戦を楽しんでくれています。
先述した「対面型のアナログゲーム」として、ハイストも「歴史に触れる」という観点のみならず子供たちの精神的成長に少なからず寄与することができると考えています。
イベントに興味を持っていただけましたら、ぜひこちらからチェック、そして遊びに来ていただけると嬉しいです。
これからもHighstoは子供たちが自発的に歴史に触れ、かつ楽しめるカードゲームの作成を行っていきます。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
ありがとうございました。
参考文献
室山晴美, & 堀野緑. (1991). 競争場面における敗北者の課題認知と対人認知 負け方と勝者からのフィードバックの効果. 教育心理学研究, 39(3), 298-307.

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