
理学と工学の違いとは?
突然ですが、「理系の多くが進学する学部」と聞いて、どこを思い浮かべますか?
正解は理学部・工学部・理工学部です。
そして、名前の通り、理学部では理学を、工学部では工学を学びます。理工学部は理学部と工学部がくっついたようなものなので、学科によって理学を学んだり工学を学んだりすることになると思います。
ただ、理学部とか工学部とかいう名前は聞いたことがあっても、「理学って何?」「工学との違いは?」と聞かれると意外と説明できない人も多いのではないでしょうか。
本記事では、そんな名前は知っているかもしれないけど、細かいことはあまり知られていないと考えられる理学と工学の違いについて説明していきたいと思います。
僕自身は座学では理学よりなことを学んできた一方、研究内容は工学よりであるため、物理系分野だけにはなってしまいますが、理学と工学の両方をかじってきた人間です。
そのため、それなりに参考になる内容にはなっていると思います。
よろしくお願いいたします。
理学とは
まず、理学の辞書的な説明を述べると、「自然界の法則や原理の解明を目的」としています。もう少し具体的に述べると、「なぜこうなるのか?」「どのようにして自然はそのようにふるまうのか?」といった根本的な問いに対して答えを探そうとするものです。
例えば、理学部の数学科では、という小学生でもわかる式を厳密に証明したりするそうです。という計算は、直観的にはまったく間違っていないものではありますが、それを厳密に証明するとなると話は別で、その証明にはそれなりの行数が必要となります。
また、知識そのものの探究が目的であり、すぐに応用できるような内容でなかったとしても十分に価値があります。例えば、宇宙のことがわかったとして、それがすぐに我々の生活を豊かにするかといわれると、そうでないことが一般的です。実際、物凄くお金をかけて「はやぶさ」を日本は宇宙に飛ばしてサンプルを回収してきたわけですが、それが我々の生活に影響するかといわれるとまったくそういうわけではありません。しかし、長い目でみれば、人類にとって大きなプラスになる可能性はあります。実際、現在ではふつうのものであっても、研究されたり発見された当初は何の意味があるのかわからなかったものはたくさんあります。例えば、考え出された当初は量子力学などは応用価値がほとんどなかったでしょうが、今や半導体や量子コンピューターなどの基礎となっています。研究とはそういう面があります。したがって、「金にならないから」といって、そういった分野への投資をやめることがないようにしなければなりません。
工学とは
一方、工学とは理学とは毛色が違い、「理学で得られた知識や理論を、実用に役立てることが目的」です。すなわち、「どうすればこれを実現できるか?」「どうすれば効率よく安全に動かせるか?」といった応用的・実践的な問いに答えることを目的としています。
例えば、常温常圧で超伝導となる物質を理学の人たちが発明できたとしても、それが大量生産できるとは限らないため、実際には社会実装にはさらに時間がかかることが予想されます。その社会実装のための研究を行うのが工学といえると思います。したがって、工学の方が理学よりも我々の生活をより豊かにすることには貢献しやすいです。いわゆるメーカーなどは、こちら側の仕事をメインでやっていることが多いです。当然、理学っぽいことをやっているところもありますが。
両者の違い
①マインドの違い
ある植物があったとして、それが非常に良い薬になるとします。
そうなったとき、大体の人は以下のように考えるのではないでしょうか。
- とりあえず、理由はよくわからないけど良く効くから、その植物を大量生産する方法を考えよう
- なんで良く効くのか気になるし、実は副作用とかの問題点があるかもしれないから、その植物を細かく調べてみよう
あなたはどちら側の人間でしょうか?
別にこの問いに正解はありません。個人の性格がどっちよりかによると思います。
僕の個人的な意見は後者ではありますが、前者の意見も当然理解できます。そして、個人的な感想ですが、前者を選ぶ人は工学的なマインド、後者を選ぶ人は理学的なマインドを持っていると思います。
しばしばいわれますが、理学の人から見ると工学の論理は雑で、工学の人から見ると、理学の話は実生活に当てはめにくいそうです。理由としては、上記の通り、工学の人はとりあえず応用できれば細かい原理はいったん置いておくということをやりがちで、理学の人は細かい原理などを考えることは良いのですが、その分実際に応用することまではあまり考えないということをやりがちだからです。
どちらも良い点悪い点があるため良し悪しは一概には言えませんが、両者は結構違うマインドを持っているということがイメージしていただけたでしょうか。
②学ぶ内容の違い
先ほど述べた通り、理学と工学では目的が異なる(大きくという意味ではない)ため、結構学ぶことには差が出ます。さすがに、文系と理系の学ぶことの違いほどではないですが。
具体的には、理学部の方がより理論的なことをやり、工学部の方がより実用的なことをやりがちだと思います。実際、同じような科目名でも、学ぶ内容には結構差が付きがちだと思います。例えば、統計力学という科目を物理系の学科ではやることになると思いますが、理学部では統計力学全般をかなり詳しくやりがちな一方、工学部では半導体への応用などがメインになりがちなので、特に状態密度関連のこと(分布など)だけをやっているように思います。
③余談(入試難易度の傾向)
余談ですが、入試難易度は理学部と工学部の両方がある大学の場合、入試難易度は理学部の方が高くなりがちな傾向があるような気がします。おそらく、理論的な話が多くなる分、理学部の方がやや要求レベルが高くなることが原因なような気がします。当然、この傾向から逆転しているところはたくさんありますが、実際に偏差値などを調べてみると、理学部と工学部との比較だと、理学部の方がやや高くなっているところは多いように感じます。
どちらがおすすめ?
将来的にメーカーなどに入りたい人は、工学部の方がおすすめかもしれません。特に、機械系や電気系であれば、学んだことと仕事の内容がかなり近くなる可能性があります。
それでは、理学部にメーカー就職は無理なのかというと、そういうわけではないと思います。昔は、「就職無理学部」なんて揶揄されていたこともあったようですが、現在では理学部は理学部で論理を突き詰める人たちなので、そこが評価されればメーカーに入ることも十分に可能であると思います。具体的には、データサイエンティストとしての能力などは高評価だと思います。実際、大学のホームページに行くと、理学部出身の人でも大手メーカーに入っている人は結構いることがわかると思います。いずれにせよ、専門的な勉強をしている人は強いです。
また、先ほど出した植物の例のように、性格によってどちらが向いているかが決まるような気がします。したがって、自分がどういう性格の人間なのかはよく考えた方が良いと思います。
ただ、ここまでで「理学と工学は違うのだ」ということを述べてきましたが、実際にはそこまで明確に分かれているわけではありません。すなわち、グラデーションのような関係にあることも多く、理学っぽい工学や工学っぽい理学があります。したがって、悩みすぎるのもあまり良くないかもしれません。
おわりに
本記事では、理学と工学の違いについて説明してきました。
簡潔にまとめると、理学は「自然の仕組みを知る」ことが目的で、工学は「知識を活かして実現する」ことが目的でした。そして、これらは目的だけでなく、学び方や考え方、就職にも違いがある一方、意外と境界線は曖昧であるということを述べました。
散々述べてきた通り、進路選択においては、自分の性格や興味に合った選択をすることが大切だと思います。自分に合ったところを選べば基本的には上手くいく可能性は高いと思います。
ぜひ、自分と今一度向き合って、色々と考えてみてもらいたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。他の記事(特に歴史カードゲームHi!story(ハイスト)の思い)や本家のハイストの方もよろしくお願いします。

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