放課後のハイスト
理論と実験あなたはどっち?

理論と実験あなたはどっち?

投稿日: 2025年04月28日
最終更新日: 2025年04月28日
RopiRopi

前回の僕の記事で、理学と工学は考え方や目的などが違うということを述べてきました。

一方、研究内容という側面では、意外と共通する部分があったりします。

具体的には、理系の研究は大きく分けて22つあり、一つが理論系、もう一つが実験系です。

以下、この22種類に関して詳しく述べていきます。

本記事は主に理系志望の学生向けとなっていますが、そうでない方も進路選択の参考にしていただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。

理論系と実験系のちがい

研究手法

理論系の場合

まず、理論系の研究室のよくある研究手法としては、

  • 数式の解析
  • 理論モデルの構築
  • 数値シミュレーション

があります。

まず、数式の解析は、文字通り得られた数式を実際に解いたりします。具体的には、微分方程式や積分などを扱うことが多いように思います。当然ですが、扱う式は高校までで習うような式よりもはるかに複雑になっています。例えば、レーザーの研究においてはレート方程式という以下のような微分方程式が出てきます。

dNdt=ηiIqVNτRst\frac{dN}{dt} = \frac{\eta_i I}{q V} - \frac{N}{\tau} - R_{\mathrm{st}}

次に、理論モデルの構築は、文字通り物事の結果を予想するための理論を構築しようとするものです。上手くいけば、複雑な現象であっても、かなり正確に予想できるようになります。わかりやすい例としては、「天気予報」などでしょうか。現在の技術をもってしても、天気予報が外れることはそれなりにありますが、上手くモデル化ができれば、天気の変化のメカニズムがよりはっきりとし、より正確な予報ができるようになると考えられます。そして、こういった複雑な現象を予想するためには、近似できそうなところは近似したり、できる限り簡単に考えるということをよくやります。有名な例としては、物の落下を考える際、とりあえずまずは質点(大きさの非常に小さい球みたいなもの)で考えようとするようなことです。実際のものは大きさがあって回転などをする可能性があるため実は非常に複雑ですが、最初の一歩としては、質点として考えるのは非常に良いと考えられます。

最後に、数値シミュレーションは、実際にコンピューターを使ってゴリゴリに大量の計算を行って、色々な予想を立てることです。先ほど、理論式の話をしましたが、正確な理論式があったとしても、それが解けるかどうかは分かりません。特に、パラメーターがたくさんあると解くことは非常に難しくなります。ではどうするのかというと、コンピューターの力に頼ります。すなわち、ひたすら数値を細かく代入して結果を出します(厳密には色々な手法を工夫して用いていますが、大雑把な理解としてはこれで大丈夫だと思います)。「なんだそりゃ」と思われるかもしれませんが、一般的な手法です。

理論系の難しいところは、やはり「コロンブスの卵」的なことをやることになるので、単純に非常に頭が良くないと難しいです。また、自分で理論を考える前段階として、すでに出ている論文を読んで理論を考えたりもしますが、その論文も基本的に途中式などは超省略されているものなので、行間を追うのが非常に難しいです。大学入試の解答で、超不親切な雑な解答をよく見ると思いますが、ああいったものよりもはるかに不親切です。ただ、実験系と違って実験をやらないので、物理的な拘束などは少ないです。すなわち、作業場所の自由度が高く、どこでも研究可能な場合があります。その気になれば、満員電車内での移動の最中とかでも頭の中で考えることなどは可能です。僕も、定性的なことに関しては、移動中に考えたりしています。余談ですが、『数字であそぼ。』という個人的に非常に面白いと思っている漫画があるのですが、作中で登場するあるキャラは、考えるということをパチスロをやりながらやっていました。

実験系の場合

一方、実験系は文字通り実験を行います

実験といっても、実験の内容は多種多様で、研究内容によってやることはまったく変わってきます。薬品をいじくる人たちもいれば、超大型の施設(SPring-8など)で超大掛かりな実験をする人たちもいます。すなわち、かなり個人差があります。

実験系の難しいところは、やはり実験が上手くいくかわからないところにあると思います。特に、研究の種類によっては微妙な違いが最終的な結果に大きな影響を与えることがあり、いわゆる再現性があるかないかがかなり重要になってきます。みなさんも、何かしら料理を作ったとき、同じように作ったのに最終的なできに差が出たことがないでしょうか。そのようなことがよく起こってしまいます。

また、実験の装置は高価(大雑把に見積もって、11つの装置につき数千万円以上でしょうか)で大型な物が多く、初期設定などが大変な関係上、買い替えが簡単にはできないことが多いように感じます。すなわち、一流の研究機関であっても、意外と古いものを使い続けていることがあります。よって、故障したり、調子が悪くなったりすることが意外と多いです。

さらには、単純に実験の内容によっては、一朝一夕にできるようなものではないという面もあります。特に、扱いの難しい装置などは、一回マニュアルを読んだりした程度では上手く扱うことができません。すなわち、専門装置の操作には熟練した技術が必要で、それなりのトレーニングが必要となります。こういった、「はじめの一歩」の敷居の高さもあるような気がします。

逆に、実験系の良いところとしては、上手くいけばものにもよりますが、実際にできたものが形になる点があると思います。理論系の場合、実際にできたものは実態のあるものではなく抽象的なもののことが基本なため、ある意味成果がわかりづらい面もあります。目の前でロボットが動いているのを見るのと、出来上がった式を見るのとでは、やはり前者の方が感動されやすいことが多いのではないでしょうか。

道具

理論系の研究室で一般によく用いるものは、

  • 紙とペン
  • 数式処理ソフト(Mathematicaなど)
  • プログラム(Python、Fortran等)

です。

紙とペンは言わずもがな、昔から考える上でのマストのアイテムといって良いでしょう。一方、数式処理ソフトは、コンピューターを使って計算を行うというもので、コンピューターが一般的でなかった昔はできなかった手法です。そして、自分でプログラムを組んで解析を行うこともあります。より一般的で使いやすいといわれているのはやはりPython\mathrm{Python}ですが、計算に特化するならFortran\mathrm{Fortran}というものの方が良いらしいです(僕はPython\mathrm{Python}くらいしかまともに使ったことがありませんが…)。

一方、実験系の研究室では、先ほど述べた通り研究内容によって実験内容が大きく異なるため、普遍的にこれが良く用いられるというものはないですが、コンピューターなしでは研究が成り立たない場合が多いです。また、一般的に実験といわれて思いつくようなものは誰かが使っている可能性は高いと思います。

どちらがおすすめ?

どちらがおすすめかですが、「人による」としか言えないと思います。前回の僕の記事で述べたことと同じになってしまいますが、結構性格や適性などがダイレクトに影響するものなのではないかと個人的には思っています。ただ、やはりよくある進路には違いがあるため、そういった面で選んでも良いかもしれません。

以下、個人的なイメージを述べます。

性格

まず、理論系に向いていると考えられる人は、

  • 数学的思考が得意
  • 抽象的な問題に取り組むのが好き
  • コツコツと粘り強く考えるのが苦にならない
  • 一人で集中して作業できる

です。

先ほど述べた通り、理論系の人は文字通り理論をやるので、物事を考えられるということが重要となります。そして、理論の大部分は数学であるため、数学の能力は非常に重要となってきます。また、理論は基本的に抽象的であるため、イメージの世界が扱えないと困ります。

一方、実験系に向いていると考えられる人は、

  • 手を動かす作業や機械いじりが好き
  • 問題解決に柔軟に対応できる
  • チームでの協力が得意

です。

先ほど述べた通り、実験が超重要となるので、手を動かさないことには始まりません。したがって、手を動かせる人でないと困ります。また、実験は想定外の予期せぬことがよく起こります。したがって、あたふたせずにすぐに対応できないと困ります。そして、基本的に実験は協力して行うものであるため、同じ研究室の人や周りの人とうまく協力しないと上手くいきません。ただ、これに関しては理論系であっても、一人でやっていると基本的に煮詰まるので、誰かと一緒に論文を読んで議論したりもするので、実験系だけの話とは言えませんが。

よくある進路

まず、理論系出身者のよくある進路としては、

  • アカデミック志望者が多く、博士進学率が高い
  • データサイエンス、金融工学、IT系企業、コンサルなどへの就職
  • 数理的思考を活かせる分野に強い

といった傾向があります。当然、絶対ではありませんし、メーカーなどに就職する人もたくさんいます。おそらく、「理論をやってきた」ということがアピールできるのであれば、雇う側から見れば十分に高評価なのではないでしょうか。

一方、実験系出身者のよくある進路としては、

  • 修士でメーカーや開発職に就職する人が多い
  • ハードウェア開発、材料・エネルギー系、医療機器関連などへの就職
  • 実験・測定スキルを活かす職場が多い

といった傾向があります。「実験技術」や「データを解析する能力(データサイエンティスト)」という仕事で役立つスキルを身につけてきたわけですから、当然そういった人材が欲しいところからは引く手あまただと思います。実際、大学の難易度にかかわらず、昔から実験系、すなわち、大雑把にいえば工学系の就職は強かったです。

大体の傾向ではありますが、少しは参考にしても良いと思います。いずれにせよ、専門的なことを学ぶということは大きな財産になると思います。特に、最近急激に発達してきているAI\mathrm{AI}であっても、実際に実験を行えるわけではないですから、そういった能力は今後も重宝されると思います。

一方で…

理論か実験か、どちらか一方に完全に偏っているところは意外と少ないかもしれません。理論系であっても少しは実験するかもしれませんし、実験系であっても少しは理論を考えることになると思います。また、研究室ごとに研究の方向性は決まっていますが、アプローチの方法は色々とらせてくれるところもあります。実際、同じ研究室内で、ゴリゴリに実験している人と、コンピューターで計算をしている人が共存しているところを見たことがあります。まあ、最終的にはその研究室の研究スタイルに依存するとは思いますが。

おわりに

本記事では、理系の研究における、理論系と実験系の違いに関して述べてきました。

理論系と実験系の違いは単に「机上 vs 現場」だけではなく、研究の進め方や、日常のスタイル、向いている性格、将来のキャリアなど、意外と大きな違いがあるということがわかっていただけたら幸いです。

ぜひ、理系に進学するのであれば、「理系に進んで良かった」と思えるような研究をしていただきたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。他の記事(特に歴史カードゲームHi!story(ハイスト)の思い)や本家のハイストの方もよろしくお願いします。


ハート
0 /10
合計 25 いいね

感想フォーム


この記事を書いた人

Ropi
Ropi

「放課後のハイスト」ライター

東京大学で量子デバイスの研究をしています。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』結局6回観ました。文句なしの神映画でした。
なかなか本編は予想通りにはいきませんね…
まさか独房行きとは…

よろしくお願いします。

ライターに応募

ランキング

ランキングページへ

このライターの他の記事

おすすめ記事

他の新着記事